*Le soleil*

□甘い罠
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「なんで逃げるの」

「だって・・・」

「罰1でしょ」

「あの日から、ずっとそれやないですか・・・」

「ゆみこが1日もタメ口がもたないからだよ」



約束した日から、1日すらもたない。

それだけ、日々の習慣ってものが自分の中に根付いている。

宝塚で培った、この上下関係。

音楽学校時代から知ってるチカさんやもん。

ふとした瞬間にタメ口にはなっても、ずっとなんて。

そんなん恐れ多いことは習慣じゃない。


おかげで、あの日からずっと罰1だ・・・。



『でも、ペナルティがあるからね』

『ペナルティ?』

『3日のうちに、一度でも敬語を使ったら罰が1つ付くの』

『罰って・・・なんか怖い』

『大丈夫。タメ口を使うのは、私と2人きりの時だけでいいんだし、罰も軽いし』

『罰ってどんなんですか?』

『私とキスすればいいんだよ』

『え』

『だから、キスするの』

『なんで』

『なんでって・・・これが罰なんて優しいと思わない?』

『・・・思わない』



チカさんとキスするのは、もちろん嫌なわけないけど。

でも、それとこれは違う気がする。

なのに。



『じゃあ、やっぱりいい』

『あ、、』



思いっきり拗ねるから。

いいことが何なのかも気になるけど、
何よりチカさんにそっぽを向かれると。



『チカさーん・・・そんな拗ねんでも』

『もういい。タメ口もキスも、ゆみこはそんなにイヤなんだって分かったから』



そんなこと言われたら。

チカさんは、知ってて言ってるんだって分かってるのに。

私がチカさんに弱いって、十分知ってるはずなのに。



『・・・します』

『いいよ。嫌々でされても嬉しくないから』

『や、じゃないです』

『・・・ホントに?』



ずるいなーって思うけど、チカさんの嬉しそうな笑顔を見ると
まぁ、いっかって思えてしまうから不思議だ。



「あ、」

「残念。壁でした」



後ずさり出来なくなってしまった。
チカさんの手が顔の両側の壁に置かれて、身動きが取れなくなる。



「チカさ・・・」

「あ、また。罰増やすよ?」



切れ長の瞳に囚われて動けなくなった私は、チカさんの思いのままだ。
ずるいって思うのに、その唇が近づくだけで鼓動は早まって。
逃げたくなるのに、本当は早く捕まえてほしいような。


触れた後の、悦びを知っているから。




優しく重なった唇は、罰1のはずなのに
一度だけの口づけで済むはずはなくて。
これは、あの日からずっと同じなんだけど。


深く重ねられていくキスに、最初は戸惑っても
やっぱり好きな人とのキスは幸せで満ちているから。
無意識に応える自分がいるのも、どうしようもなくて。



「・・・ゆみこ」



名前を呼ばれただけで、心がじんとするのは、
好きだから?・・・好きすぎるから?



結局、あの日から同じ。

1日もタメ口がもたない私は、キスをされて
そのまま、チカさんのものになる。

それは、結果論だけいうなら幸せだけれど。




「いいことって・・・何?」

「タメ口を頑張ることだね」



愛しい人の腕に抱かれたまま疑問を口にすると、
さらっと返されて、早く知りたいと少しもどかしい。



「もー・・・チ、チカ・・・教えて?」

「かわいいー♪でも、教えない」


ぎゅっと抱きしめられて、ほっぺにキス。

わー・・・テレるというか、何というか。

って、ごまかされてる場合じゃない。


チカさんの誕生日までに、達成できるんやろか・・・。


明日こそは!


『打倒!敬語』を強く心に誓って、
愛しい人に寄り添ったまま眠りについた。





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