*Le soleil*

□コンプレックス
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「あんたが泣かせてどうすんの」

「頭冷やしたいだけ」

「・・・ほんっと不器用」



泣いてるゆみこを優しく慰める人に言われると、カチンとくる。

どうして、私はいつも泣かせるだけしか出来ないの。

私だってハマコみたいに、いつだって大人な心を持って接したい。

いつだって冷静で動じなくて、優しく見守れたら。

でも、出来ない。

好きだから。

好きすぎるから、出来ない。


誰かといるのを見たら、不安になる。
誰かにあの笑顔を向けているのを見ると、胸が苦しくて。
自分に自信なんて持てない。
嫉妬した時の醜い部分を、知られたくない。



「そんなんじゃ、ゆみこ、誰かにとられちゃうかもよ」

「・・・そうだね」

「私がもらえるなら、もらうけど」

「え」

「あれ、言ってなかったっけ?
 ゆみこが好きだってこと」



笑顔でそう言われても。
あまり信憑性がないように聞こえてしまう。



「ハマコ・・・が?」

「何、意外?」



意外も何も、ここで恋をする人だとは思わなかった。
しかも、ゆみこ。・・・なんで?



「可愛い人が好かれる、っていうのは世界共通だと思うけど」

「ゆみこ、、可愛いって思うの?」

「ゆみこは可愛いよ。見た目もだけど、中身も」



雪組時代から気になっていた、とか
またこうやって雪組で巡り会えたこと、とか
ハマコがゆみこに対して、ゆっくり恋心を育てていたなんて思いもしなかった。



「だから、今みたいにゆみこを泣かせるなら、私がもらう」

「・・・・・」

「その方がいいかもしれない、って顔しないでくれる」

「・・・ハマコなら、幸せにできるんだろうなって」



いつだって大人。

いつだって冷静。


私もそう見られるけど。
そういう部分を持ち合わせてはいるけど。

本当に大人で冷静なのは、ハマコの方だと思う。
周りを包むように温かくて、元気をくれる人。
私が持っていないものを、いっぱい持ってる。



「ハマコだったら、よかった」
「え?」

「ハマコみたいに、いつも余裕があるならよかったのに」

「チカ」

「ハマコになれたらよかった」

「それは、こっちのセリフなんだけど」

「え?」


さっきまで、明るい笑顔を浮かべていたハマコが
珍しく眉を下げて哀しそうな表情をしていた。



「嫉妬深い人って、恋人としてはあまり歓迎されるものじゃないでしょ」

「そう・・・だね」

「それでもチカがいいんだから」
「・・・」

「冷たい態度とられて泣いて、もうやめたらって言っても
 ゆみこは、でも好きなんです、しか言わないよ」



好きな人を慰める立場なんかより、ゆみこの好きな人になりたい。

ハマコが何ともいえない顔をして呟いた。



「チカだったら、よかったな」



誰よりも強力なライバルかもしれないと思った。



「とにかく、早く仲直りしなよ。
 もっと大事にしてあげて」



好きな人の大事な仕方がわからない私に、
それがどれだけ無理難題か。どちらかといえば、泣かせる方が得意だ。



「次泣いてるの見たら、本当に奪るからね」



でも、自分が大切にできる自信はなくても
やっぱり好きだと思ってしまうから。



「・・・死守する」



そう言うと、ハマコは楽しそうにアハハっと大笑いした。



「そうやって、もっと好きだって気持ち、見せてあげなよ」



ライバルなのに、アドバイス。

ハマコには、やっぱり敵わないなと思う。





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