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□la pluie −雨−
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-Osa Side-
「ベルリンどうやったー?」
「すっごく楽しかった!」
「えー、お土産は」
「何かね、ドラキュラがたくさんいる村に行って」
普通だ。
こうやって観察していても、何の変わりもないと思う。
いつも通りの、ふわっとした空気と笑顔。
なのに、どうしても心に残る違和感。
その笑顔が、嘘に見えてしまうのはどうして。
「で、これがお土産」
「うわー、ドラキュラやん」
「ゆみこさん好きかなーって」
「トム、趣味悪い」
「あー、せっかく買うてきたのに」
「色んな組の人が一緒におるって、なんか楽しそう」
「あ、キリヤさんもおられましたよー」
「知ってる。今日、お土産もらいに行くもん」
「ちゃっかりしてるー」
「ドラキュラやないことを祈っとこ」
どうして、なんて。
思うこと自体、自虐だなと思う。
嘘の笑顔に決まってるのにね。
だって、もうここにいない。
ゆみこの心からの笑顔を引き出せる、あの子は。
それでも、そこまでショックを受けてほしくなかった。
そんな都合のいいことを思ってる自分が、バカみたいだ。
どんどん愚かになっていく自分がおかしくて、でも笑う余裕もなくて
今の自分が好きか、なんて聞かれたら即答で違うと言うけれど
どれだけ愚かになっていっても、ゆみこへの気持ちは変わらない。
そのことだけは、何故か嬉しかった。
好きだと気付いて、片想い歴はまだまだだけど・・・
「でも、ベルリンでミズさんと会って変な感じやったなーって」
「え」
「次の公演でも一緒ですよねって言いたくなるというか・・・
やっぱり、もう違う組なんやって思うと寂しいですね」
ミズの名前だけで、やっぱりあの笑顔はウソだと知る。
そんな簡単に、ゆみこの精一杯の演技を揺らしてしまうから。
「そう・・・やね。もう、違う組やもん」
「実感ないですよね」
「次の公演で、やっと分かるって感じなんやない?」
何事もないように、また嘘の笑顔を貼り付ける。
その瞬間だけで、ゆみこが今もミズを想っているんだって分かった。
『もうどっか遠くに行っちゃうだけだよ』
『それでも好きです』
『相手にされてないのに』
『構いません』
『嘘ばっかり』
『嘘じゃないです』
『いい加減に』
『なんと言われても、好きです』
でも、私だって譲れない。
なんと言われても、ゆみこが好き。