BOOK3

□冷めた瞳
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熱い衝撃が体を貫いた。

「……か、はっ……」

馬頭丸はずるずると膝から崩れ落ちた。

べしゃ、と鈍い水音が立つ。

自分を中心に、赤黒い水溜まりができていた。

力の入らない体を叱咤して、どうにか首をもたげる。

霞む視界に彼女が見えた。

その後ろには、彼女の仲間の男がずらりと並んでいる。

「……なん、で……」

「だから言ったんだ」

低く唸って、自分と彼女らの間に相棒が立ちはだかった。

「…牛頭…」

「人間なんざ、信じられるもんじゃねぇんだ。特に、陰陽師なんて奴らはよ…!」

ギリギリと歯噛みして、敵意を剥き出しにしているのが伝わってくる。

それは突然の襲撃であった。

臨戦体制を取る間に容赦なく攻撃され、深手を負った。

僅かでも動くたびに激痛が走る。

馬頭丸は歯をくいしばって体をずらし、相棒の向こうが見えるようにした。

左腕を式神と融合させ、髑髏を構えた快活そうな娘。

その瞳は、馬頭丸の知っているものではない。

いらぬ感情を削ぎ落とした、冷たい色をたたえていた。

「…ゆら……どうして……」

「気安く呼ぶなや、妖怪」

妖怪、と。

忌々しげに彼女は吐き捨てた。

「悪しきものを退治て滅す。それが私の使命」

不意に髑髏がケタケタと笑った。

霊力が急速に高められていく。

狙いは――――自分。

あぁ、結局。

人間は相容れぬ存在だったのか。

ましてや、陰陽師などとは。

「牛頭……行こう……」

相棒に肩を借りる馬頭丸だが、自力で立つ事もままならなず、背負われる形になった。



――この先は、不可侵の領域に踏み入ることはしないから。

どうか、命の灯火を消す事だけはしないで。

君を想う事ができなくなってしまうから――。

「さよなら……ゆら」



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