BOOK3

□旦那様と幼妻
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そもそも奴良組は、極道一家だ。

俗に言う、ヤクザだ。

例えば頭領が出入りの帰りで、例えばその妻が出迎えに玄関の上がり口で正座をし、三つ指ついて深々と頭を下げていても、なんら不思議はない。

……ないのだが。

「お帰りなさいませ、旦那様」

やけに楽しそうにかしこまっているのは、幼妻の若菜。

その後ろには、いつも彼女にくっついている小妖怪どもが、ちまっと正座している。

「お、おぅ…」

あいまいに頷くしかできないでいる鯉伴は、脳内を整理することにする。

己は確かにヤクザの頭領で、若菜はその妻で。

若菜はどちらかといえば、自分がいま帰ったと言えば奥からぱたぱたと走ってきて、満面の笑みでお帰りなさいと言って、勢いあまって抱きついてくれるような、天真爛漫な娘である。

それがどうして、出迎えに玄関先で正座をし、三つ指ついて深々と頭を下げ、おまけに小妖怪を引き連れるなんてことになるのか。

ついでに、旦那様はないだろう、旦那様は。

…などと考える鯉伴の胸中は知らない若菜。

立ち上がって、甲斐甲斐しく羽織を脱がせる。

鯉伴は黙って脱がせられる。

「旦那様、お食事になさいますか?お風呂も沸いてありますよ?それとも」

「いやいや待て待て。その先は言うな」

素でとんでもないことを言い出す気がして、鯉伴は慌てて遮った。そして妻の肩をがしっとつかむ。

「若菜。いったいどうした?」

「あら。だって、極道の妻はこうするものなのでしょう?みんなが教えてくれたの」

……誰だ、若菜に妙なことを吹き込んだのは。

そいつらはあとで締め上げるとして。

鯉伴は少し腰を落として、若菜と目線を合わせた。

「確かに間違っちゃいねぇがな。何もそっくりその通りにする必要はねぇんだぜ?」

ところが幼妻は、彼の意に反して、えぇー、と不満そうに頬をふくらませた。

「せっかく楽しいのに」

「そ、そうかい…?」

「はいっ!ご奉仕させて頂きますね、旦那様!」

その言葉もどこで覚えたのやら。

楽しそうな若菜に、鯉伴はがくっと頭を下げた。



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