BOOK3

□いつだって僕は
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いつだって僕は、君に見つめられていたいんだ。






君は楽しそうに、得意のかき氷を配っている。

受け取るみんなの顔はひきつる。

なにせ今は、吐く息も凍てつく季節だ。

だけど自分は、早く、早くと願う。

他でもない、君から直接手渡されるんだから。

「猩影くんっ!はいっ!」

君がやっと目の前に来て、かき氷を渡してくれた。

「あ、ありがとうございます…」

手に持つと、ひんやりする。

これが夏ならば心地好いだろうが、残念なことに身震いがした。

奥歯を噛みしめて堪える。

君はにこりと笑って、次に配る相手のところに行こうとする。

「あっ…」

もっと、その笑顔を見たい。

そう思ったら。

「ね、姐さん…つららの姐さん!」

君を呼び止めていた。

君は怪訝そうに振り返る。

思った異常に声量が大きくなってしまって、他のみんなの目も同時に引いた。

「なぁに?」

「あ…、いや…」

無意識に呼んでしまった自分に呆れる。

「あ、もしかして足りない?もっと大きい器の方がよかったかしら?」

全く的はずれの心配をする君。

そもそも、真冬にかき氷が出てくること自体が、何か違う気がする。

その上、量を増やすなんて、胃腸を酷使するに他ならない。

だけど、そんなのは断る理由にならないんだ。

「お、お願いします…」

その瞬間、尊敬と同情の眼差しが集中した。

たぶん、頭と腹を心配してくれているんだと思う。

なのに自分には、僅かな優越感が生まれていた。

かき氷の増量を頼んだ時、君はそれはそれは嬉しそうに、顔を綻ばせたから。

いつだって君に見つめられたい。

そのためなら、頭痛や腹痛なんてなんてことないさ。

あぁ、でも。

薬はもらっておいた方がいいかも知れない。



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