BOOK3

□寝惚けの破壊力
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トポトポ……

ティーポットにそそがれるのは、おかわりのお茶。

真っ白な湯気と、シナモン入りのミルクティーの甘い香りが、ふうわりと漂う。

ポットを持って、夏実はトントンと階段を上がっていく。

目指すは自分の部屋。

そこで彼が待っている。

彼の面白い話に聞き入っているうち、お茶がなくなってしまった。

早く続きを聞きたい。

もっと彼と話がしたい。

おのずと足取りが軽くなる。

部屋のドアを、夏実はいそいそと開けた。

「お待たせしました、お坊さ……あれ」

先ほどまで見事な語りを披露してくれていた彼が、壁にもたれ、目を閉じていた。

「お坊さん、寝てますか?」

近くに寄ってみても、動く気配がない。

ちょん、とつついてみても同じ。

夏実は彼を改めて見て、ひょう、と息を吸った。

「きれい……」

キメの整った白い肌、すっと通った鼻筋、薄い唇。

鋭く光る瞳は今は隠れて、面長の輪郭を漆黒の髪が縁取る。

女性に向けるような形容詞が似合うが、決して中性的でも、ましてや女性的でもない。

雄々しいと言う意味での美しさだ。

夏実がしばらく見とれていると。

「ん…」

不意に彼が見じろいで、夏実は飛び上がりそうになった。

彼はうすくまぶたを上げる。

「お、お坊さん?おはようございます…」

夜だけれど。

どぎまぎしながら問いかける――と。

「え……っ」

腕を引かれて、彼の顔が間近に迫る。

息がかかりそうだ。

「――どうした?目覚めの口づけをしてくれるんだろう」

「へ、え、えぇえっ!?」

別人かと思うくらい、声も台詞も、とんでもなく甘い。

「何を躊躇うことがある。拙僧とおぬしは、運命に導かれた仲であろう?」

「ううう、運命!?」

「ああ、恥じらっているのか…フ…可愛い奴よ。さあ、我らの愛の証を……」

「う、あ、うぅ〜…」

もう夏実の目と頭の中がぐるぐるしている。

「おっ、お坊さんっ!しっかりして下さい!」

夏実は彼を全力で押しのけた。

すると彼の目が、ぱちりと開いた。

今度は、しっかりと。

「ああ、すまない。待っている間、少し寝てしまったようだ」

「お坊さん…戻った…?」

「さて。どこまで話したのであったか…。ん、夏実殿、どうした?」

開口一番と同じ台詞だが、今回はごくごく平凡な疑問の言葉だ。

しかし、夏実にはそれに答えるゆとりがなかった。

ぶんぶんと頭を振る。

彼が首を傾げたが、夏実は顔を冷ますのに必死だった。



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