BOOK3
□其は涼風の如く
1ページ/4ページ
奴良組の厨(くりや)は、内庭を通った奥にある。
野菜を抱えて庭に面した廊下を渡っていた雪麗は、ふと人影を見つけた。
「ん?」
内庭の三方を囲んでいる廊下には、ほどよく日が射す箇所がある。
そこに屈強そうな体躯の丈夫が端座していた。
雪麗は角を曲がって、男に歩み寄る。
「牛鬼じゃない。こんなところでどうしたの」
特に総会が近付いている訳でもなかったはずだ。
真面目に輪をかけた彼が、ふらりと本家に遊びに来るというのも考えにくい。
それにこの男は、猫のごとく日向ぼっこなんぞする柄だったか。
当然の雪麗の疑念だが、問いには沈黙で返された。
「ちょっと、聞いてるの?」
若干眉をつり上げる。
腰を曲げて顔を覗くと、彼のまぶたは閉じられ、唇もしっかり結ばれていた。
「……まさか、寝てる?」
腕は胸の前で組まれ、背筋も首もしゃんと伸びている。
一見すると、瞑想しているかのようにも見える。
しかし、僅かに上下する肩が、それを否定していた。
「なんて器用な男なの……」
雪麗は尊敬より呆れの念のこもった声をもらした。
.