BOOK3

□其は涼風の如く
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奴良組の厨(くりや)は、内庭を通った奥にある。

野菜を抱えて庭に面した廊下を渡っていた雪麗は、ふと人影を見つけた。

「ん?」

内庭の三方を囲んでいる廊下には、ほどよく日が射す箇所がある。

そこに屈強そうな体躯の丈夫が端座していた。

雪麗は角を曲がって、男に歩み寄る。

「牛鬼じゃない。こんなところでどうしたの」

特に総会が近付いている訳でもなかったはずだ。

真面目に輪をかけた彼が、ふらりと本家に遊びに来るというのも考えにくい。

それにこの男は、猫のごとく日向ぼっこなんぞする柄だったか。

当然の雪麗の疑念だが、問いには沈黙で返された。

「ちょっと、聞いてるの?」

若干眉をつり上げる。

腰を曲げて顔を覗くと、彼のまぶたは閉じられ、唇もしっかり結ばれていた。

「……まさか、寝てる?」

腕は胸の前で組まれ、背筋も首もしゃんと伸びている。

一見すると、瞑想しているかのようにも見える。

しかし、僅かに上下する肩が、それを否定していた。

「なんて器用な男なの……」

雪麗は尊敬より呆れの念のこもった声をもらした。


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