BOOK3

□気付いた瞬間
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馬頭丸は己の掌を見つめていた。

相棒には、男にしては綺麗すぎる手だ、と笑われたことがある。

確かに、彼のように刀を取って鍛練に励んでいる訳でもないから、肉刺(まめ)も切り傷もない。

それでも、骨ばった男の手だと思う。

背丈だって相棒とたいして変わらないし、リクオの人間の姿より高い。

やっぱり男だ。

「ねぇ、牛頭丸」

「ん?」

「牛頭ってさ、つららを抱き上げたことある?」

「ハァ!?ある訳ねぇだろ、馬鹿か!」

相棒は思い切り顔をしかめて、ポカリと殴ってきた。

……痛い。

馬頭丸は気を取り直して、再び掌を眺める。






ゆらの家に行った時のことだ。

宿題をやりながら睡魔と戦っていたゆらは、見事に両方に敗北した。

テーブルに突っ伏したゆらを見かねて、布団に寝かせようと抱え上げた時――。

馬頭丸は思わず、まじまじと彼女を見下ろしてしまった。

「人間の女の子って、こんなに軽いんだ……」

華奢で、細くて、脆い。

それなのに、式神を使役して敵に立ち向かう。

気付いてしまった。

妖怪と人間の違い。

男と女の、違い。

己よりずっと儚い存在のはずなのに、強い意思を失わない少女。

……この感情を、なんと呼ぶのだろう。

憧れ、ではない。

敬意に近いけれど、それとも異なる。

あえて言うなら、目が離せない。

唐突に生じた心の違和感に、馬頭丸が気付いた瞬間だった。



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