BOOK3
□流れ出た真紅
1ページ/4ページ
いいものが手に入った。
イタクは若干気を逸らせながら、遠野の森を木から木へ馳せていた。
衣の上から懐のものを確かめる。
これを見せれば、きっと彼女は興味を示すだろう。
ただし、他の連中に知られてはならない。
知ったら掠め取るに違いないからだ。
闘技場を遠目で見れば、そこに探す対象はいない。
ならばと、イタクは屋敷に爪先を向けた。
厨で彼女を見つけた。
どうやら、お得意のレモンの蜂蜜漬けをこしらえているらしい。
幸いにも一人だった。
「冷麗」
イタクは戸口から声を掛ける。
彼女は首だけ巡らせて、あら、と言った。
「イタク、どうしたの?」
「これを」
懐から件のものを取り出す。
「なぁに、それ?」
案の定、冷麗は食いついた。
“それ”をまじまじと見て、
「ねぇ。それって、もしかして……」
勘が働いたのか、瞳が期待で丸くなった。
「ヤボ用で人里の近くまで行ってな。そこから持ってきた」
「まぁ。どうやって入手したのか……は聞かない方がいいかしら」
「…………」
イタクが閉口すると、冷麗は何かを察したか、口に手を当てて微笑した。
「楽しみね」
.