BOOK3
□流れ出た真紅
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その夜。
誰かに見つかっては面倒なので、イタクは冷麗と、使われていない部屋に移動した。
冷麗が、厨から拝借した土器の盃を用意する。
イタクは例の代物の栓を開けた。
その中身を盃に注ぐ。
盃は深く澄んだ赤色の液体で満たされた。
「綺麗な色ね……」
冷麗は盃を両手で掲げ、顔に近づけた。
「ん……。それに、とても良い香り」
「葡萄酒だ」
イタクも盃を持ち、冷麗のそれと軽く合わせた。
口に運び、上目で彼女を垣間見る。
女の艶やかな唇が、笑みの形のまま盃の縁に触れる。
盃が傾く。
また二度、三度と傾けられる。
唇から盃が離れると、冷麗は目をなかば伏せた。
イタクには、うっとりと余韻に浸っているように見えて、心臓を掴まれた心地がした。
そこで、己が盃に文字通り口をつけただけだと思い出して、イタクはぐっとあおった。
熟れた果実の甘酸っぱさが喉の奥に広がり、鼻を抜けた。
「美味しいわね」
冷麗と視線が絡む。
「……あぁ」
応じる声は思いのほか小さく、掠れていた。
「イタク、ありがとう」
にこりと微笑まれて、イタクはついと目を逸らした。
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