BOOK3

□流れ出た真紅
2ページ/4ページ


その夜。

誰かに見つかっては面倒なので、イタクは冷麗と、使われていない部屋に移動した。

冷麗が、厨から拝借した土器の盃を用意する。

イタクは例の代物の栓を開けた。

その中身を盃に注ぐ。

盃は深く澄んだ赤色の液体で満たされた。

「綺麗な色ね……」

冷麗は盃を両手で掲げ、顔に近づけた。

「ん……。それに、とても良い香り」

「葡萄酒だ」

イタクも盃を持ち、冷麗のそれと軽く合わせた。

口に運び、上目で彼女を垣間見る。

女の艶やかな唇が、笑みの形のまま盃の縁に触れる。

盃が傾く。

また二度、三度と傾けられる。

唇から盃が離れると、冷麗は目をなかば伏せた。

イタクには、うっとりと余韻に浸っているように見えて、心臓を掴まれた心地がした。

そこで、己が盃に文字通り口をつけただけだと思い出して、イタクはぐっとあおった。

熟れた果実の甘酸っぱさが喉の奥に広がり、鼻を抜けた。

「美味しいわね」

冷麗と視線が絡む。

「……あぁ」

応じる声は思いのほか小さく、掠れていた。

「イタク、ありがとう」

にこりと微笑まれて、イタクはついと目を逸らした。


.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ