BOOK3

□微熱
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なんだか、ふわふわする。

変なの。

まるで薄い幕に包まれてるみたいに、景色も音も匂いも、遠く感じる。

どうして?

「――どの、――みどの」

あれ、呼ばれてる?

このあったかい声は……。

「夏実殿」

「ほえ?」

ふと、ピンク色だった視界が黒くなった。

あ、笠のお坊さんだ。

そうだった、お坊さんと一緒に、千羽様のところにお花見に来てたんだ。

それで、あれ?

……あ、おでこにお坊さんの手が当たってる。

気持ちいい。

「……やはり。夏実殿、少し熱があるな」

熱?

そっか、それでふわふわしてたんだ。

「休んだ方がいい。送って行こう。立てるか?」

そんな……っ、お坊さんとのお花見、楽しみにしてたのに。

「わ、私ならなんとも――」

「夏実殿。きちんとこちらを見ろ」

お坊さんの声って、すごく不思議。

怖いわけじゃないのに、力強くて、ほだされちゃうの。

「……顔色も良くない。花見は終いだな」

それまで草むらに敷いたレジャーシートに座ってたのに、いきなり地面がなくなった。

その代わり、背中と膝の裏に、しっかりした力を感じる。

「この頃は暖かくなってきたとは言え、日が落ちると冷えるからな。それでやられたんだろう」

あぁ、せっかくのお花見なのに……。

「そう残念そうな顔をするな。花はまだまだ咲いているのだから、また来ればいい」

お坊さんが優しく語りかけてくれた。

……そうですね。

体が浮いたまま、ゆらゆら揺れてる。

お坊さんの肩、広いんだ。

ちょっとだけ、頭を預けてみる。

あったかいな。

まぶたが落ちちゃいそう。

……ね、お坊さん。

体調が戻ったら、また一緒にお花見、来てくれますか?



夢の靄がかかった中。

彼が微笑んで頷いてくれたような気がした。



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