BOOK3

□男の君にときめいて
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最凶の敵・鵺との戦いが、とりあえず落ち着いてから約二ヶ月。

京都は花開院家で、着々と準備や調べ物が進められている。

その途中経過の報告に、本来なら電話ですむものを、なぜかわざわざ、ゆらが東京の奴良組に赴いていた。

――実は彼女の兄の差し金だったりするのだが。

そんな訳で。

妖怪屋敷に泊まるハメになってしまったゆらは、迷路のような廊下を、どすどす踏み鳴らしていた。

「どうなっとるんや!この家はっ!」

実家もデカいが、奴良組も無駄に広い。

おまけに、あちこちに妖怪がうろついている――当たり前だが。

「あれが陰陽師?」

「三代目の友達だってよ〜」

「あんな貧相なのがか?」

本人たち――人じゃないが――は隠れているつもりだろうが、しっかり聞こえている。

「やかましいわっ!」

牙を剥けば、ささっと引っ込む影がひとつふたつみっつよっつ……キリがない。

「ええ加減にせぇ〜っ!」

「うわっ」

腕を振り回して叫べば、すぐ後ろで驚いた声。

ゆらは片眉を上げて、足の位置はそのままに、膝を交差するように振り返る。

すると、目の前に壁があった。

「なっ……」

反射的に体を反らそうとして――足が交差したままなのを忘れていた。

「ひえっ」

足がもつれる。

「ゆらっ!」

壁から何かが二つ、伸びてくる。

傾くゆらの肩は、伸びてきたそれに、しっかり支えられた。

「あ……」

肩を掴んだのは、ゆらのものより大きな手だった。

「お、おおきに……」

視線で手から肘、二の腕、肩へ辿っていく。

壁だと思ったのは、人の体。

それは濃紺の着物をまとっていて、長い髪が床に真っ直ぐ向かっている。

乱れた襟の合わせから、汗ばんで湿った感じの胸板が見えて――。

……胸板!?

慌てて目を逸らしたゆらは、つい顔を上げてしまって。

息を飲んだ。
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