BOOK3

□永遠の誓い
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汝、いかなる時も。

かの者を生涯の伴侶とし、添い遂げる事を誓うか――。



すー、はー、すー、はー。

吸っては吐き、吐いては吸う。

白い洋装に身を包んだ黒田坊の隣で、夏実が深呼吸を繰り返していた。

太陽の恵みを集めたような、眩しく鮮やかな色のドレスが、小さく収まった可憐な相貌を引き立てる。

長いまつげは忙しなく上下し、彩られた唇は果実のごとくみずみずしい。

頬にはぱっと花が咲いたかのようだ。

「緊張しているのか?」

「ん……だって……」

夏実はひときわ大きく息を吐いて、胸をぐっと押さえる。

次いで、黒田坊を仰ぎ見た。

「お坊さんは緊張しないんですか?」

「全く緊張せぬと言えば嘘になるが……。それより」

黒田坊はついと身を屈め、夏実の、耳の前に垂らした一筋の髪に触れた。

ついでに耳たぶも掠める。

華奢なうなじは無垢で、それでいて扇情的。

「その“お坊さん”と言うのはどうなのだろうな」

彼は言う。

これより共に歩んでいく間柄となるのだから、他人行儀ではないか――と。

「でも……じゃあ、なんて呼んだらいいんですか?」

彼が纏う香水の香りが、夏実の鼻腔をくすぐる。

頭の芯が、くらくらする。

「黒、と呼べばいい」

まるで睦言のごとく、黒田坊は囁いた。

「え、あ……」

さぁ、と彼は促す。

髪も整えて、いつにも増して色めいた彼の顔が近い。

夏実は右へ左へ視線を泳がせて――。

「く、黒………………さん」

黒田坊は吹き出した。

「なんだ、それは」

「だ、だって、習慣って言うか、つい……」

夏実が恥ずかしさで頬を上気させる間も、彼は喉を震わせている。

「まったく。仕様のない花嫁だ」

溢された言の葉は、角砂糖にシロップをかけたよりも甘い。

不意に彼が、視界から消えた――と思った直後、夏実の体は宙に浮いた。

「きゃっ」

夏実はとっさに彼の肩にすがる。

抱き上げられたと言うより、持ち上げられた。

膝を抱えているのは右腕一本なのに、重そうな素振りがまったくない。

「お、お坊さん……!あっ」

失態に自分で気づき、夏実はぱっと口をふさぐ。

手を離しても体の線がぶれない。

黒田坊はまた口元を緩めた。

「さぁ、時間だ。行こうか。我が愛し姫」

「……はい」

こくりと頷き、夏実は黒田坊の首に腕をからめた。



彼らは誓う。

悠久の眠りが互いを別つまで、共に生き、添い続けると――。



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