BOOK3
□一ツ閨
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ふ……っ、と。
少しでも気を抜けば、意識が飛んでしまいそうだ。
実際、何度か飛びかけた。
布団に身を沈めたつららの瞼は重く、半分も開いていない。
意思に反して上瞼と下瞼が重なろうとするたびに、つららは頭を振り、目をかっと開く。
けれども、その反動か、瞼は余計にゆるゆると下がっていく。
そんなことが、もう何度目だろうか。
「眠いんなら、寝ていいんだぜ」
見かねたのか、隣から声がかけられた。
若さのある色めいた声の持ち主は、妖怪任侠・奴良組の三代目総大将だ。
それはそうだ、つららが横になっているのは、彼の床なのだから。
「いいえ……。リクオ様が……お休みに、なるまで見守る、のが……護衛の、つ、とめ……」
そうは言いつつも、舌が回っていない。
最後は吐息と混じって、音になっているかすら怪しい。
フ、と息を漏らして、彼は秀麗な双眸を細めた。
「本当、大した護衛だぜ」
“護衛”の部分に含みを持たせて、彼はつららの白い頬を撫でる。
「だが、今はただの女だ。男の寝床に潜り込む意味を、知らねぇはずはねぇだろ?」
――なぁ、つらら?
長い指が顎を滑り、つう、と首をなぞる。
「んっ……」
寝言にも似た女らしい響きが、つららの唇を振動させた。
「大丈夫、何もしねぇよ。今は……な」
つららの薄く開いた唇に、彼は自身の指先をくわえさせた。
男と女、一つの寝具に身をゆだね、夜を越す――。
《後書き→》