BOOK3

□ありのまま
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しゅるり……と、衣擦れがして。
布がやや乱暴に取り払われた。

あらわになった雄の肉体に、夏実はハッと息を呑み込んだ。

ギシ、とベッドがきしむ。
彼が片膝を乗せたのだ。

ベッドで丸まっていた夏実は、更に縮こまった。
握ったシーツはしわになって、汗で湿っている。

「夏実……」

沁み出るような声で呼ばれて、後頭部がぞわぞわとしびれた。

彼はベッドに完全に乗り、にじり寄ってくる。

「夏実には、拙僧のありのままを見てもらいたい」

「あ、りの、まま……?」

緊張と、不安と、戸惑いと……。
色んな感情がないまぜで、泣きたい衝動にかられながら、夏実は彼を見上げる。

「そうだ。おぬしの前では数多の武器も、黒衣もいらぬ。ただ、この身ひとつあればいい」

この身、と言った体は、とても大きくて。
逃げ道をふさぐかのように、覆いかぶさっている。

おもむろに片腕が伸びてきて、頬を包まれた。

乾いた手も、同じように大きい。
それにあたたかかった。

「夏実が怖いと感じるなら、拙僧は何もしない。許してもらえるまで待つ覚悟もある」

手の平のぬくもりに少しほぐされて、夏実もそろそろと手を向かわせる。

腕が完全に伸びきらないうちに、指先は彼の左胸にぶつかった。

「あっ……」

どうすればいいのか迷った手は、頬を撫でていた彼のそれが重なって、胸に押しつけられた。

――あったかい……。ううん、熱いくらい……。

その熱は思っていた以上で。
敏感な指の末端で、彼の激しく強い鼓動を感じる。
人と同じ、生きている証。

――もっと、触れたいな……。

夏実はもぞもぞと動いて、真下から向き直った。

「私も知りたいです。お坊さんのこと……もっと、たくさん……」

彼の眉がきゅっと寄せられて、眼差しの切なさと甘さが、いっそう強くなった。

「夏実……拙僧の愛しき娘……」

全身で彼を感じる。

まだ見たことのない彼を知る――。
夏実の胸の中は、ざわざわと落ち着かなかった。



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