BOOK3

□視線の合わせ合い
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日差しを浴びて、手作りランチでお腹いっぱいになって。
組んだ手を前におもいきり伸ばして、ん〜っ、と夏実は伸びをした。

「気持ちいい天気ですね〜」

総合病院の裏手に位置するここは、夜ならばうすら怖いが、日の光が柔らかく溜まっている今は、まるで迷い込んだネバーランドだ。

そう強くない風が、周りを囲む新しい緑の薫りを運んで、夏実と男の髪を揺らした。

「うむ……。心地好い風だ」

黒い装束に身を包んだ彼ーー黒田坊は、立てた片膝に肘を乗せ、くつろいだ様子だ。

おだやかに微笑する黒田坊を、きれいだ、と夏実は思う。

その額に生える一対の角は、彼が人でないものの証し。
人ではないけれど、ちゃんと心も意志もあって……きれいで、不思議な存在。

だけど、それらは時々、人間くさい言動をしたりもする。

「こんな時は、昼寝でもしたくなるな」

夏実はつい嬉しくなった。
こういうところは、人と一緒ならしい。

「お坊さんもそんな風に思ったりするんですね」

「妖であっても、くつろぎたいと考えたりするものだ。しかし、そうだな……。午睡をするにも、枕がない」

そう言えば、と夏実は辺りを見回す。
野原が広がるほかは、ぽつぽつと石があるだけだ。

片付けたランチバッグを引き寄せて、これを枕に、と言おうとした時。

黒田坊が物問いたげに自分を見ているのに気づいて、夏実は首を傾けた。

「お坊さん? どうしたんですか?」

「ああ……。丁度良い枕があったと思ってな」

表情は相変わらず優しいけれど、何か違う。

ふいに、彼の笑みが少しだけ深くなった。
それは子供では持ち得ない、大人の男性のいたずらっぽさーー。

合わされていた彼の視線が落とされる。
その先をたぐれば、そこには自分の膝頭。

「え、えっと……」

朱い頬を隠すように、夏実は首をすくませる。

黒田坊が目線を戻してきたのがわかったけれど、夏実は合わせられなかった。

「たまには拙僧が甘えても……イイか?」



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