BOOK3

□宵伽事
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リクオは煙草を吸う真似をする。

ーー彼女は無防備だ。

屋敷の連中から自分がどう見られるかなんて、考えちゃいない。
しかし、逆に好都合か。
端から見れば、己と側近の少女が良い仲らしいから、よもや本気にする者もいまい。

己と彼女は幼なじみで同級生。
ただ雑談しているだけ。
実際、学校のこととでもなんとでも、言い訳はいくらでもできる。

リクオは煙管を脇差しのように腰帯に差した。





「ま……、オレもカナちゃんに伝えなきゃいけねえことが、山のようにあるしな」

そう薄く微笑んだ彼の目は、いつもの、お人好しな幼なじみのものに近かった。

「ーー何から知りたい?」

「ひゃっ」

残像を残して瞬時に移動するのは、ぬらりひょん特有のやり方だ。

リクオはさっと煙管を抜き、細い吸い口をカナの顎の下に添える。
間近で見て、夜のリクオは美形だったと、カナは思い知らされた。

任侠者っぽい仕草、覗き込んでくる瞳、ぞわぞわと膨れる雰囲気……。
心臓がドキドキと暴れ出す。

「優しく教えてやるよ」

「へ……?」

カナは思う。
話をするだけで、優しいとか優しくないとかあるのだろうか。

「けど……カナちゃんが思うような優しさじゃねえかもな。どうする?」

「そ、それは……困る、かも……?」

優しいか優しくないかだったら、前者の方がいい。

「困る、か。そうだな。存分に困ってもらおうか」

いったいどんな話になるのだろう。
つり上がる唇にクラクラしながら、カナは身構えた。



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