BOOK3
□破戒僧と乙女の夜の過ごし方
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他愛ない話をしつつ、時はゆうるりと過ぎていく。
季節柄、手肌が乾燥するという話題になった。
「この前、可愛いハンドクリーム見つけたんですよ!」
「はんど……?」
じゃんっ。
夏実は黒田坊の前に掲げてみせる。
チューブ状でローズのイラストが描かれたそれは、既に友人に自慢済みだ。
「軟膏か」
「とってもいい香りがするんですよ!」
黒田坊がキャップをひねる。
ーーしかし、力加減を誤ったか、手に勢いよくこぼれてしまった。
女性が好みそうな華やかな香りが広がる。
「……これは、すまない。勿体ないことをしてしまったな」
「大丈夫です。あ、せっかくなら、そのまま手に塗っちゃったらどうですか?」
「いや、拙僧は……」
彼は渋っている様子だ。
もしかしたら、こういう香りは得意でないのかも知れない。
「それならば、夏実殿に塗って差し上げよう」
名案だ、と彼は顔を上げる。
「えっ!? だ、大丈夫です! 私はさっき塗りましたから」
風呂上がりに、たっぷり擦り付けたばかりだ。
「左様か……」
あからさまに肩を落とした黒田坊に、夏実は焦った。
申し訳ない気持ちと、ちょっとばかり、彼と触れ合えるかも……という期待とで。
気がついたら告げていた。
「じゃあ……お願いします」
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