BOOK3

□神に詣でて、擬い蝶
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もとは綺麗な朱であったのだろうに、ところどころ色が落ちた鳥居は、寂しさを感じさせる。
とは言っても、神域であるからにはいかがわしいことはない筈。
そう思いたいアスミが、半疑の眼差しで検分まがいのことをしていると、一緒にいた筈の黒い姿は、いつの間にか境内を徘徊していた。

アスミは慌てて追いかける。
鳥居による境界を踏み越えんとした寸前、叱責が飛んできた。

「参道の中央を歩くな。そこは神の渡るところだ」

それに、参詣のマナーが全くなっちゃいない。
非難はそう続く。

無愛想極まりないけれど、陰陽師たる彼の言葉は聞かねば。

アスミは参道の端っこを軽やかに通り、彼のそばに寄った。

「それにしても、奇遇やね。花開院くんもお参りとかするん?」

にこにこと話しかければ、じろりと一瞥された。
その目が思いきり「貴様の脳味噌の仕組みが不可解だ」と言っている。

「陰陽師が神を詣でて何がおかしい」

陰陽師の彼ーー花開院竜二にアスミを連れ歩く気は微塵もないらしく、再びそぞろに歩き出す。

欠片の優しさも見いだせられないのは普段と全く同じ。
それでも邪険にされていないのが嬉しくて、アスミは勝手ながら彼に張りついた。


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