BOOK(献上と頂戴)
□秋空は青く
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首無は焚き火に火箸をつっこんで、中からアルミホイルで包んだ芋をごろりと転がす。
ぱかりと割ると、白い蒸気とともに、こがね色の身がお目見えだ。
「熱いから気をつけろよ」
注意を聞いているのかいないのか、横合いからさっと伸びた幾つもの手が、芋をさらっていった。
素早さと食欲の旺盛さに苦笑しながら、首無は火の中にある次の芋を移動させる。
下ごしらえで一度蒸してあるから、火の通りはわりと早い。
しかし、気をつけないと焦げてしまうのだ。
隣には、焼く前の芋にフライングで手を伸ばす者をつまみ上げる毛娼妓。
更にその隣では、喉につまらせてむせている者の背を若菜が撫でている。
首無は、その形の良い目を細めた。
「穏やかだな…」
すると、芋の焼き具合を見ていた毛娼妓が顔を首無へと向けた。
「何か言った?」
「いや。なんでもないさ」
首無は軽くかぶりを振る。
ちょうど頃合いの芋を焚き火の下からかき出すと、そばに用意しておいた新聞紙にくるんで、毛娼妓に差し出した。
「ほら。まだ食べていないんだろう?」
「首無こそ、食べていないじゃないの」
「俺はあとからでいいさ。お前が先に食べるといい」
「そう?それなら、お言葉に甘えて」
毛娼妓が熱い芋を抱く様を見て、首無は微笑んだ。
「あらあら。二人とも仲良しなのねぇ」
毛娼妓を挟んで首無とは反対側で、若菜が芋にかじりついていた。
新聞紙を巻き、さらに布で包んであるのは、熱くないようにという毛娼妓の配慮だろう。
「これとは浅くない付き合いですから」
毛娼妓の物言いに、苦さを含んだ笑みを浮かべる首無である。
若菜が目をほかへ移した隙に、彼は毛娼妓の耳元へ頭を寄せた。
「紀乃」
彼女の手に己のをそっと重ねる。
案の定、手の甲が冷えていた。
「芋をカイロ代わりにするのもいいが、早く食べないと冷めてしまうぞ」
そう言うと、毛娼妓は頬に朱を走らせてばつが悪そうな顔をした。
「首無にはわかっちゃうのね」
「そりゃあ、浅くない付き合いだからな」
人とともに生きる、穏やかな日常がここに。
空の色は、どこまでも澄んだ、抜けるような蒼であった。
《後書き→》