BOOK(献上と頂戴)

□恋待夜
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中身の並々と注がれた徳利を盆に乗せ、牛鬼は静かに歩を進める。

何故こんなことをしているのかと言えば、かの冷たくも美しい妖怪のお達しだからだ。

今宵だけで、彼女の部屋と厨(くりや)を何度往復しただろう。

牛鬼は一つ息を吐いて襖を開けた。

「雪麗殿――」

すると、先刻まで自分に絡みながら酒をあおっていた彼女は、力ない様子で壁に寄りかかっていた。

「寝てしまったか・・・」

横にさせようと肩に手を乗せると、その目がかっと見開かれた。

「寝てなんかいないわ。早く頂戴」

言葉遣いは気丈でも呂律が怪しいし、瞳の焦点も合っていない。

「少し飲み過ぎです。そろそろお休みになってはどうですか」

「なによぉ、あるじゃない」

それなのに聞く耳を持たない雪麗が傍らの徳利に手を伸ばしたものだから、彼は慌ててそれを遠ざけた。

「ちょっと、何するのぉ」

「これ以上は駄目です」

頑なに拒否すれば相手もむっとする。

「新参者のくせに生意気よ。いいから寄越しなさい」

「なりません!」

しかし、伸ばしきった指先は空を切り、替わりに男の広い胸板に収まることとなった。

ようやく大人しくなった彼女の背中を、牛鬼は優しく撫でてやる。

緩やかに上下する肩を眺めながら、また息を吐き出した。

「総大将・・・あなたも罪なお方だ・・・」

その呟きは、部屋の静寂に吸い込まれていった。



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