BOOK2
□君の声で名を呼んで
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今日は、とても大切な日。
母は朝からものすごく張り切っていたし、ただの買い物なのに、鴉天狗を筆頭に組員総出で見送られた。
隣ではつららが、ずうっとにこにこしている。
この日は、毎年変わらずにやって来る。
だけど、今年は違う。
今までで一番…いや、一生のうちで最も特別な日になる。
なぜなら、今日をもって“奴良組の若頭”ではなくなるのだから――。
「リクオくんっ!」
駅前をてくてくと歩いていると、馴染みの相手と出くわした。
「あれ、カナちゃん?」
カナは息を整えているところからすると、急いでいたらしい。
「よかった!今、リクオくんのおうちに行こうと思ってたの!」
「うちに?どうしたの?」
「うん、あのね。リクオくん、はい!これ!」
と言われて、何やら箱を差し出された。
「リクオくん、今日誕生日だったよね?9月23日…」
「うん。ありがとう、覚えててくれたんだ」
「当たり前じゃないっ」
「ふふっ。あ、ねぇ、開けてみてもいい?」
カナがこくりと頷いたので、リクオはそれを開けてみる。
すると、優しげな甘い香りが漂った。
「わぁ、シフォンケーキだ。カナちゃんが作ったの?」
「うん。口に合うといいんだけど…」
不安そうなカナに、リクオはふるふると首を横に振った。
「カナちゃんの手作りなら、きっと美味しいよ!」
そう言うと、カナは花開くように笑顔を咲かせた。
「それならいいな」
つられて一緒に微笑んだリクオは、お供をすっかり忘れていた。