BOOK2

□参詣には腹を据えよ
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彼女は普通の人間で、己は人ではない。

それを考えれば、一緒に散歩など、滅多にできないことである。

貴重な安らぎを覚えつつ談笑していると、夏実にくいくいっと袖を引かれた。

「お坊さんっ、お坊さんっ」

「こらこら、引っ張るな」

「見てくださいっ。縁結びの神様ですって!お参りして行きましょう!」

夏実が指し示す先には鳥居があって、そばの立て札には、確かにその旨が記されている。

「神?」

黒田坊は、心の内で首をひねった。

妖怪、それも総元締めの幹部格たる己が、神を詣でる。

…何かが違う気がする。

だが、しかし。

それよりも、聞き捨てならない単語があった気がした。

「夏実殿、ちょっと待った」

それまで引っ張られていた手を握り返し、逆に引き寄せた。

「お坊さん?」

「縁結びというのは、出逢っていない縁を結ぶものだろう?夏実殿には拙僧がいる。必要ないはずだが?」

「はい、でも…」

夏実は彼を見上げ、それから神社の入り口である鳥居をちらちらと見て、何かを言いたそうにしている。

「夏実殿?」

促すように名を呼ぶと、夏実は、おずおずと口にする。

「縁結びの神様って…もう結ばれた縁を強くしてくれたり、とか、しないのかなぁって…」

あぁもう、この娘は。

どこまで愛らしいのだろう。

頭を優しく撫でてやって、それから髪をすく。

「なら、参ろうか」

とたんに夏実は顔を輝かせて、大きく頷いた。

「はいっ!」

彼女が望むなら、神の一柱や二柱や三柱、参詣してやろうではないか。

とりあえず、腹を据えるくらいはするべき…かも知れない。



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