BOOK2
□余所見もほどほどに
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百鬼夜行の大将、またの名を魑魅魍魎の主・ぬらりひょん。
その正室たる珱姫は、肩をわなわなとふるわせていた。
「あ…、あ…、あ……」
喉の奥から絞り出される声は、さながら地響きのごとく。
「よ、珱姫…。ほら、ちょっと落ち着けって…、な?」
ぬらりひょんは、そろそろと妻に手を伸ばしては、火傷でもしたかのようにさっと引っ込める。
触らぬ珱姫に祟りなし。
他の妖怪たちは、既に首尾よく離れていて、遠巻きに見ていた。
全員の目に、揃って憐れみの色が浮かんでいる。
一番冷たい視線は雪麗だ。
「これは、まぁ、なんだ、つまり成り行きと言うかじゃな…」
不意に地響きが止んだ。
珱姫が、すぅ、と息を吸う。
あ、これは。
妖怪たちが同時に耳を塞いだ。
「お、おい…。珱姫、頼むからそれだけは……」
ぬらりひょんの懇願もむなしく。
「あ、や、か、し、さ、まぁ―――――!!」
奴良組恒例、珱姫山の大噴火であった。
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