BOOK2

□ほだされたら負け
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馬頭丸は、いつも突然やって来る。

こっちの事情はお構いなしで、着替え中に突入された時なんかは、本気で滅してやろうかと思った。

んで、また今日。

「馬頭丸。山に帰らんでええの?」

「ん〜」

狭くてボロいアパートに、二人きり。

後ろから引っ付いてきたこいつは、こちらが何を言っても唸るだけ。

正直、とっても鬱陶しい。

だけどあったかくて、結局は剥がせないんだ。

「ゆらって柔らかいよね〜」

「な…っ、失礼な!それはうちが太ってる言いたいんかっ!」

「そうじゃなくてさ。抱きしめてると気持ちいいの。ボクとしては、胸が真っ平なのが残念だけど」

「むっ…!?」

絶句した。

花も恥じらう乙女に、なんということを!

「ななな、何を考えとるんやっ!この変態妖怪!!」

じたばたと暴れて、手近な札をひっつかむ。

「離れろ!!滅したる――」

それを振り上げた手は、馬頭丸にあっさり掴まれた。

「ちょっ、離せっ!」

ほどこうと空いてる手を伸ばしたら、まとめて片手で捕らえられてしまった。

見た目貧弱なくせに、どこにこんな力があるのか。

お腹に回されたもう片方の腕で、ぐっと密着させられる。

「やっ…」

「ゆらさぁ。ボクは、その辺の雑魚妖怪と違うんだよ?」

「み…耳元でしゃべんな…アホぉ…」

骨がないぶん、ものすごく近い。

こんなことなら、骨を外してもらわなきゃよかった…。

「いくら陰陽師でも、人間の女の子に簡単にやられるワケないじゃん」

「…ぁ…」

ぞくぞくする。

耳をかばおうと頭を傾けたら、肩口に生暖かい感触が走った。

「ひゃっ…!」

「ゆら、無防備だよ」

次いで、首筋を下から上になめられる。

「ん……やぁ…」

目の前が滲んできた。

と、視界のすみに白いものが見えた。

そうだ、テーブルに出しっぱなしだった財布。

その中に…。

「たん、ろ――むぅ!」

顎をむりやり上げさせられて、口をふさがれた。

のどを限界まで反らした状態で、舌が突っ込まれる。

息もまともにつげない。

「……ふっ…」

解放された手で、悪あがきをするょうに膝をたたく。

意識が飛びかけたところで、やっと離してもらえた。

「式神は出さないでね。あれ、おっかないんだから」

なんでこいつは、平然としていられるんだろう。

くやしい。

「…馬頭丸、の…あほぅ…」

「まだそんなこと言えるんだ」

体がぐらりと傾く。

たぶん、押し倒された。

「ま、そんなゆらも好きなんだけどね。ボクがゆ〜っくり教えてあげるよ」

なんか物騒なことを聞いた気がするけど、何も考えられなかった。

明日、大丈夫だろうか……色んな意味で。



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