BOOK2

□あなたにtrick、君にtreat
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「お坊さんっ、トリック・オア・トリート!」

「………………は?」

ピシッと音を立てて黒田坊は固まった。

夜間に窓から直接こっそりという、言ってみれば実に妖怪らしい方法で、夏実の部屋を訪問した黒田坊。

なぜか猫耳としっぽの生えた夏実に出迎えられた。

毛足の長い生地で作られた部屋着で、おまけに猫ポーズつき。

いったいなんの遊びだ。

「可愛いでしょ?耳としっぽがセットなんですよ。ハロウィンだし、雑貨屋で買っちゃったんです」

夏実がくるりと回ると、しっぽがひょんと揺れる。

「…あぁ、飾りか」

とりあえず、妙な妖怪に憑かれたなどではないらしい。

黒田坊はまじめに安堵した。

窓枠に足をかけたままの体勢ではなんなので、部屋に邪魔をして腰をおろす。

「今日がハロウィンとやらだったとはな。確か、子供たちが仮装をするのだったか?」

「そう!それで家を回るんです。"お菓子をくれないといたずらするぞ!"ってね」

床にぺたんと座って小首をかしげる夏実は猫娘。

「お菓子と悪戯、か。ふむ」

黒田坊は顎に手をあてて考える。

お菓子を出せないこともない。

だがしかし、夏実が悪戯をしてくるなら、それも興味がある。

黒田坊は口角を上げた。

「もし拙僧が、お菓子を持っていなかったら…どうするんだ?」

「へ?」

「おぬしが自分で言っただろう。"トリック・オア・トリート"と。どうする?悪戯するか?」

「え、えっと…」

夏実は視線を右へ左へ。

彼をちょっと驚かせようとしただけなので、なにも考えていなかった。

しかし、彼のしたり顔を見ると、なにかしなければならない気が…する。

「いっ、いたずらします!」

「ほう」

夏実は黒田坊の脇腹をがしっと掴んだ。

「む」

そして、まさぐりだす。

「こっ、こらこら!やめないか…!なつっ、夏実、殿…!」

「いやです!だってお坊さんが言ったんじゃないですか」

楽しくなってきた夏実は、調子にのって背中もくすぐりだす。

はたから見れば抱きついている体勢なのだが、黒田坊にはそれどころではなかった。


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