BOOK2

□君と微睡む
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瞼を通して突き刺さる朝の光に、鯉伴は目が覚めた。

うっすらと瞼を上げれば、障子を透かして陽射しが部屋へ注いでいる。

隣で眠る娘の温もりに、自然に頬がゆるむ。

起こしてしまわぬよう気を配りつつ、鯉伴は蒲団から抜け出した。

枕元に置いてあった煙管を手にして、火を点ける。

寝起きの一服をゆっくりと吸い込み、煙をくゆらす。

宙にたゆたう煙を見ながら、鯉伴は考えた。

心地好い気怠さの残る朝だ。

事が終わってそのまま朝まで眠り続けたのは、随分と久しい。

それはつまり、昨晩名実ともに夫婦となり、未だ夢の中のこの娘が、それだけ安らげる存在であるということだ。

鯉伴が再び煙草をふかすと、衣擦れが聞こえた。

「鯉伴、さん…?」

見れば、妻が目許をこすりながら上体を起こしていた。

「あぁ、若菜。すまねぇな。煙たかったか?」

鯉伴はすぐに火を揉み消して、妻の肩に手を添える。

どうやら寝ぼけているらしく、若菜は甘えるように寄り掛かってきた。

「んぅ…」

紅い華の散る乱れた襟元には非常に物凄く激しくそそられるのだが、そこは理性を総動員して我慢。

なにせ若菜は、まだ幼さの抜けきらない新妻だ。

鯉伴は若菜を抱えるようにして一緒に蒲団に横たわり、掛け蒲団を引き上げた。

再び眠りに誘(いざな)われるように、ぽんぽんと背中を優しく叩く。

すると若菜はもぞもぞ動いて、鯉伴の胸にくっついた。

「…鯉伴さん…だいすき……」

その瞬間、鯉伴は動かずにいるのに――正確には、手をあらぬ方向へ動かさずにいるのに、必死になった。

耳に入ってしまう寝息に集中しないように、落ち着けと己を諫める。

「大事にしてぇんだ…。あまり煽ってくれるなよ…」

思いの外、情けない声が出てしまった。

鯉伴の孤独な苦悩など露知らず、若菜は安心するのか、気持ちよさそうに眠っている。

そのうちに、鯉伴の瞼もふっと下りた。

もうしばらくは可愛い妻と微睡んでいようと、鯉伴は決めた。



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