BOOK2

□奇妙な逢瀬
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夜も更け、ぬらりひょんが未来の伴侶の元へいそいそと向かった頃。

京の旅籠の一室で、雪麗は開け放した窓枠に肘をつき、あからさまな溜め息を吐いた。

「どうして、あなたと一緒にいなくちゃならないの?」

非難めいた問い掛けの先は、部屋の隅で正座していた牛鬼。

雪麗の視線に臆することなく、飄々と答える。

「総大将より、貴女が騒ぎを起こさぬように見張っておけと仰せつかったからです」

「それは知ってるわ。私は、同じ部屋にいる必要はあるのかと訊いてるの」

「目を離せば、どこに行かれるか分かりませんから」

「随分と信用がないのね」

雪麗は顔を外に向けた。

二人のいる部屋は二階だから、人の往来が良く見えた。

しかし、宿には幻術を張り巡らしてあるため、妖怪が滞在していると分かるはずもない。

忙しなく行き来する人間の中に、己を見下ろしている女がいると気付く者はいなかった。

雪麗はそうしてしばらく眺めていた。

「……つまらない」

不意に、小さく呟いた雪麗。

そして何を思ったか、じりじりと牛鬼に寄り始めた。

「ねぇ、牛鬼」

逞しい体躯にすり寄り、その口元に指を這わせて、艶めいた声を発する。

「ちょっとだけ、付き合ってくれない?」

瞳には妖しげな色が含まれていて、牛鬼は思わず身を引いた。

「な、何にですか…」

「それを女に言わせるの?」

冷や汗を浮かべてぴったりと壁に張り付いてしまった牛鬼の背中に、するりと腕を回す。

「雪女と言う妖怪がどんな存在か、知らぬあなたでもないでしょうに」

からかうような雪麗。

「いや、しかし…」

「いいでしょう?凍らせたりはしないから」

「そういう問題では…雪麗殿…」

奇妙な逢瀬の始まりは、やけに静かな夜だった。



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