BOOK2
□雪と蝶
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ひらり、ひらりと。
一匹の蝶が、縁側でくつろぐ男女の元へ舞い寄る。
「どこから来たのかしら」
先に気付いたのは女――雪麗だ。
「ここにいては、組員の餌になってしまう。安全なところに逃がしてやった方が良いのでは?」
男――牛鬼は、見かけからは想像出来ぬ優しさを見せる。
彼の危惧など知らぬ蝶は、遊びたいとでも言うように雪麗に近付いた。
「おまえ、私に触れたら凍ってしまうわよ?」
触れただけでは本当に凍りはしないだろうが…。
言葉が通じたのか、蝶はまたひらりひらりと飛んで行った。
「これのせいかしら」
雪麗は着物の袖をちょい、と持ち上げた。
そこに描かれていたのは、優雅に舞い踊る大小の蝶の姿。
「きっとこれを見て、仲間だと思ったのね」
「…それだけではないように思えるが」
雪麗は訝しげに牛鬼を見る。
「もう一つの蝶と戯れたかったのではないか?――雪のように魅了される、美しい蝶と」
一呼吸分の間合いを置いて、雪麗はフッと笑った。
「その蝶…もしかしたらとんでもない毒を持ってるかもよ?」
「籠に捕らえるために毒にあてられるのなら、それも本望」
強く…熱く見つめる牛鬼を、雪麗は真っ直ぐに受け止める。
やがて逸らしたのは、彼女の方からだった。
「…蝶が求めるのは、ただ一つ。甘美な蜜をたたえた最高の花だけよ。他のどんな花にも惑わされたりしない」
身震いする程に言い切った雪麗は、晴れ渡る蒼空を見上げた。
至高の花は、遠い空の向こうに。
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