BOOK2

□矢絣模様の恋心
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及川つららは、うきうきしながら学校の廊下を駆ける。

手には矢絣模様のハンカチーフで包んだ弁当箱。

男子生徒たちの桃色な視線は華麗に無視して、目指すはただ一人。

溢れる想いが、あの方にまっすぐ届きますように。

「若〜!お昼ごはんですぅ〜!」

本人には止められていたが、一緒に過ごせるのが嬉しくてつい呼んでしまう。

「あ、つらら」

彼に駆け寄ろうとして、つららはピタリと足を止めた。

彼の手に、既に弁当らしきものがあったから。

チェック柄のランチバッグなんて、自分は知らない。

彼は眉尻を下げて、済まなさそうに言った。

「ごめんね、つらら。カナちゃんがお弁当作ってくれたんだ」

言葉が出なかった。

――奪われた。

「つららが用意してくれてるだろうって思ったんだけど、断るのも悪いし…」

「そう、ですか…」

つららは目を伏せた。

視界に入る、モダンな幾何学模様。

「でも、せっかく持って来てくれたんだし、つららのも食べるよ。くれる?」

伸ばされた手は、彼らしい優しさ。

けれど、つららは弁当の包みを背中に隠した。

「い、いえっ…。お昼があるならいいんです。リクオ様が食べ過ぎてしまわれるのも良くないですからっ…」

「あ、じゃあ、凍らせといてくれれば夕方にでも…」

「いえ、それには及びませんので…!」

つららはくるりと背を向ける。

「失礼します…!」

彼の制止も聞かず、走り出した。

再び生徒たちに注目されていたが、気にしていられない。

矢絣模様の布を握りしめる。

放たれた矢はそれっきりで、見返りのない一方通行。

何も戻って来やしない。

つららは唇をぎゅっと噛みしめた。



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