BOOK2
□好色、闇に消ゆ
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「それで、どちらに?」
鯉伴の側をパタパタと飛びながら、鴉天狗は問いを繰り返す。
「よもや、遊廓などに行かれるおつもりではありますまい?」
「………」
「図星ですか…」
はぁ〜と、鴉天狗は再び大きく息を吐いた。
「お父上はあんなにもお母上一筋だと言うのに、何故鯉伴様はこのように育ってしまわれたのでしょう…」
手拭いを取り出し、よよよ…と泣き出す始末。
「あのなぁ、カラス」
鯉伴は足を止め、項垂れているお目付け役と向き合った。
「俺だっていつかは嫁を取る。そのためには、世の中を学んでおかなきゃあな」
「つまり、将来のためと…?」
「そういうこった」
「り、鯉伴様っ……。ぐすっ」
鴉天狗は鼻をすすり、今度は感激で泣き始めた。
「鯉伴様ぁぁ〜〜っ!!」
そして勢い良く抱きつく――はずが、すり抜けてしまった。
「あれ…?」
手ごたえも何もない。
そこにあるはずの鯉伴の姿が、煙の如く消えた。
「――あとは頼んだぜ」
その言葉に鴉天狗が振り返ると、ただ闇が続くだけだった。
「してやられた…」
茫然とする鴉天狗の呟きは、妖怪の主に届くことはなかった。
《後書き→》