BOOK2

□好色、闇に消ゆ
2ページ/3ページ


「それで、どちらに?」

鯉伴の側をパタパタと飛びながら、鴉天狗は問いを繰り返す。

「よもや、遊廓などに行かれるおつもりではありますまい?」

「………」

「図星ですか…」

はぁ〜と、鴉天狗は再び大きく息を吐いた。

「お父上はあんなにもお母上一筋だと言うのに、何故鯉伴様はこのように育ってしまわれたのでしょう…」

手拭いを取り出し、よよよ…と泣き出す始末。

「あのなぁ、カラス」

鯉伴は足を止め、項垂れているお目付け役と向き合った。

「俺だっていつかは嫁を取る。そのためには、世の中を学んでおかなきゃあな」

「つまり、将来のためと…?」

「そういうこった」

「り、鯉伴様っ……。ぐすっ」

鴉天狗は鼻をすすり、今度は感激で泣き始めた。

「鯉伴様ぁぁ〜〜っ!!」

そして勢い良く抱きつく――はずが、すり抜けてしまった。

「あれ…?」

手ごたえも何もない。

そこにあるはずの鯉伴の姿が、煙の如く消えた。

「――あとは頼んだぜ」

その言葉に鴉天狗が振り返ると、ただ闇が続くだけだった。

「してやられた…」

茫然とする鴉天狗の呟きは、妖怪の主に届くことはなかった。



《後書き→》
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ