BOOK2
□春の日溜まりに
1ページ/2ページ
取っ組み合いながらじゃれる息子と夫を、カナは楽しそうに眺めていた。
父子のケンカは刀こそ出てはこないが、息子が父を真似てか「めーきょーしすいー」だのと叫びながら新聞紙を丸めた疑似刀を振り回すものだから、組員…特に小妖怪たちは冷や汗が止まらない。
しかし、危ない事はないと二人を信じているからか、もしくは天然か、カナはのんびりしたもの。
「ほんと、仲良いわよねぇ」
呑気にそう言ったのは、カナの姑にあたる若菜だ。
「リクオも、すっかり良いお父さんになっちゃって」
「はい!」
カナと若菜は互いに微笑んだ。
ちなみに取っ組み合いの火種は、母であり妻であるカナの膝の独占権と言う、激しく平和でどうでもいい事なのだが、本人たちはいたって本気。
やがて息子が、父の腕をかいくぐって母の胸に飛び込んだ事で、この日のケンカは終了した。
ある春の日の、桜の蕾が開く頃の事だった。
《後書き→》