BOOK2

□恋情の憂
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猩影は縁側の隅に座し、夜の庭を眺めていた。

特に何をするでもない。

本家に来るといつもそうなのだ。

なんでもない賑やかさが、かえって煩わしい。

「…猩影くん?」

やや遠慮がちに呼ばれた。

首を回すと、つららがすぐ傍に立っている。

「一人でどうしたの?何か考え事?」

「え、えぇ…まぁ…」

「そう。あ、ちょっと待ってて」

「えっ、姐さん?」

呼び掛けに構わず、つららはスタタタ…とどこかへ去って行った。

残された猩影はぽかんとするしかない。

とりあえず、待つことにした。





しばらくして、つららが盆に徳利とお猪口を携えて戻って来た。

「あの、つららの姐さん…。それは…」

「少しだけね。リクオ様には内緒よ」

口元に人差し指を立てていたずらっぽく笑うつららに、猩影の心臓が跳ねた。

無邪気な少女のようで、魅惑的な大人の要素も持ち合わせる彼女。

「さ、どうぞ」

徳利を差し向けるつららに、猩影はわたわたと姿勢を正した。

つららに合わせて懸命に背中を丸める。

「猩影くんったら。普通にしてていいのに」

「いえっ、そういう訳には…っ」

並々と注がれたお猪口に彼女が映る。

視線を上げると、にっこりと微笑まれて――…。

「…っ!」

猩影はぐいっと一気に仰った。

…熱い。

「あら。猩影くん、お酒は好きなの?」

「いや…その…」

「あの狒々様のご子息だものね。ささ、もう一杯」

彼女の酌を断れるはずもなく。

まともに味わいもせず、猩影は注がれるがまま、どんどん流し込んでいった。


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