BOOK2
□恋情の憂
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体がとにかく熱い。
喉が灼けるとはこの事かと、猩影は身をもって感じていた。
「今夜は星がすごいわね…」
感嘆するつららにならい、猩影も重たい頭を持ち上げる。
一面に無数に瞬く星の中、ひっそりと浮かんでいる細い月があった。
新月から二日と言ったところか。
まるで己のようだと、猩影は思った。
闇から抜け出したばかりの、満月にはほど遠い頼りない光――。
「強くなりたい…」
ポツリと洩らした本音。
「もっと強くなって、もっと畏を集めて……胸を張れる組頭になりたい…」
「猩影くんは良くやってるって、リクオ様が仰っていたわよ?」
猩影はかぶりを振る。
「俺なんてまだまだです。到底、若のようにはできません」
「……ね、猩影くん」
猩影は視線だけを動かす。
「私は、リクオ様と比べることはないと思うわ。だって猩影くんは猩影くんなんだもの。焦らなくても、きっと――」
「それじゃあ駄目なんです!!」
「きゃっ!」
猩影はつららの肩をガシッと掴んだ。
顔を前に突き出す。
「早く一人前になりたいんです!姐さん、俺は…っ」
「痛っ…猩影くん、落ち着いて…っ」
掌から伝わる冷気で、猩影は我に返った。
「す、すみません…」
情けない。
つららにとって、今の自分は子供なのだろう。
ただ図体がでかいだけの、知恵をつけた子猿。
「俺、ちょっと頭を冷やして来ます…!」
「ちょ、ちょっと!?」
ゴッ!!
立ち上がった拍子に、頭を天井に強かにぶつけてしまった。
酒が回った体に追い打ち。
思わずうずくまる。
「猩影くん、大丈夫?」
「…はい……なん、とか……」
正直、目が回って気持ち悪い。
でも醜態は見せたくないから、一刻も早く去りたかった。
気合いでどうにか立ち上がろうとした――ら、くいっと服を引っ張られて。
後頭部に柔らかいものが当たった。
「え…」
数秒置いて、猩影はそれがつららの膝だと気付いた。
「ねっ姐さん!?駄目です!こんなの、若に申し訳が…」
「いいから」
優しく押さえられて、猩影はつららを見上げる。
その瞳には、慈しむような暖かな光が宿っていた。
「いいから、休んでいて。ね?」
「…はい」
多少の罪悪感を覚えながら、猩影は睡魔に誘われることにした。
「姐さん…気持ちいい…」
猩影の意識はそこで途切れた。
微睡みの中で、心地好い冷気が顔に吹きかけられた気がした。
《後書き→》