BOOK2
□水無月
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「雨…止まないわね」
「…あぁ」
妖怪の息づく遠野の里では、昼過ぎから雨が降っている。
闘技場で特訓中のイタクたちだったが、やがて本降りになり解散せざるを得なくなった。
濡れた着物が肌に張り付くからと、さっさと引き返したのは淡島と土彦。
俄然元気なのは水妖怪である雨造で、近くの沼あたりで泳いでいるだろう。
紫も姿が見えない。
よって、木の下へ移動したイタクと冷麗は二人きりだった。
ほんの少しの会話を交わすのみで、あとは互いに無言で色の濃くなった闘技場を見つめる。
不意に冷麗が、姿勢を変えずに口を開いた。
「ねぇ、イタク」
「なんだ」
イタクもそのままで応じる。
「こんなに沢山の雨が降って…そのうち水がなくなっちゃうんじゃないかって思ったこと、ない?」
「そう考える奴がいるから、水無月っつうんだろうが」
「まぁ、そうだけど」
「……けど実際は」
葉の隙間から覗くは、今なお空に居座る鈍色の雲。
「どんなに雨が降っても、また風が雲を運んできて、また雨になる。水がなくなるなんてことはない」
「えぇ。私達が感謝の心を忘れない限り…ね」
しとしと、ザーザー。
時に弱まり時に激しくなりながら、天からの雫は木々を、葉を、そして地を叩く。
水無月の雨はすぐには終わらない。
《後書き→》