BOOK2
□花筏
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ごくありふれた商店街に、リクオとつららはいた。
「リクオ様、ここに何が?」
「ほら、見て!」
リクオが示すのは、街中に流れる川――と言うより、水路と言った方が近いか。
それを橋の上から覗く。
「まぁ…!」
そこでは幾多もの桜の花びらが、水の表面を覆っていた。
「花筏ですね。素敵…!」
水面(みなも)をたゆたう薄紅の絨毯は人々の目を惹き付ける。
現に道行く者が足を止め、ほぅ、と息を吐いていた。
「ねぇ、つらら」
「はい」
リクオは下を見下ろしたまま、瞳を輝かせている。
「例えば、桜の花くらいの大きさになってさ。本当に花びらで筏を作って冒険できたら、楽しいんじゃないかな」
「ふふっ。そうしたらリクオ様は、一寸法師ですね」
「うん、一寸法師だ」
互いに見つめ、くすりと笑う。
「ボクはね。もし冒険に出るなら、つららと一緒がいいなって思うんだ」
「リクオ様…」
つららの頬が、花びらの色と同じになる。
「どうかな?」
「は、はいっ!喜んでお供いたしますっ!」
桜は散りてなお美しく、ゆらゆらと流れゆく――…。
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