BOOK2

□Bouquet
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新緑の薫りを連れた風が、真っ白なワンピースの裾を揺らす。

ふわりとなびく髪をおさえて、カナは高級老舗旅館を思わせる玄関の前に立った。

「ごめんくださーい。リクオくん、いますかー?」

しばらくして、ぱたぱたと足音が聞こえてきた。

「カナちゃん!?」

奥から現れたのは、この和風邸宅の住人にしてカナの幼馴染み。

「リクオくん、こんにちは!」

「うん、こんにちは。どうしたの?」

リクオの後ろから、母である若菜も顔を出した。

「あらあら、いらっしゃい」

「こんにちは。すみません、突然お邪魔しちゃって」

カナはぺこりと頭を下げる。

「いいえ、とんでもない。カナちゃんならいつでも大歓迎よ」

屈託なくにこにこと笑う若菜に、カナも笑顔を向ける。

「今日は、これを届けに来ました!」

そう言ってカナは花束を差し出した。

小指の爪ほどの大きさの、白い花だ。

吊り鐘型の可愛らしいフォルムはリンドウを思わせる。

「うちの庭でたくさん咲いたので、おすそわけです」

「まぁ、綺麗ね。今の季節だとドウダンツツジかしら」

えっ、と意外そうな声を発したのはリクオだ。

「これがツツジなんだ。赤とかピンクのイメージだったけど…へぇ〜」

物珍しそうに眺めるリクオに、若菜がからかうように言う。

「リクオ、お花の勉強もしないと乙女心は掴めないわよ」

「あはは…」

「本当に素敵ね」

そこで若菜は何を思ったか、なぜか一歩引いた。

息子とカナを交互に見、花束に目をやる。

「母さん?」

そしてきょとんとする二人の前で、ぱあっと顔を明るくした。

「カナちゃん、そうしてるとまるで花嫁さんね!」

「えぇええっ!?」

「は、花嫁!?」

リクオとカナは、同時に脳天から声を上げた。

「母さんっ!どうしてそうなるの!?」

「だって、お花がお嫁さんのブーケみたいじゃない?お洋服もぴったりね」

そう言われて、リクオは横目でカナの様子を窺う。

ふんわりした白いワンピースが、確かにウェディングドレスに見えなくもない。

可憐な花束は、彼女の内面からの純粋さを表しているようで。

「…いやいやいや!全然そんなんじゃないからっ!」

大げさに否定するリクオを、カナも焦って援護する。

「そっ、そうです!…わ、私帰ります!お邪魔しました!!」

カナは花束を若菜に押しつけて勢い良く頭を下げ、逃げるように出て行った。

「えっ、カナちゃん!?」

「リクオも罪ね〜」

「何でだよ!!」

そそくさと家屋の中へ消える母にリクオは叫ぶ。

翌日はどんな顔でカナと会えばいいのかと、頭を抱えるリクオだった。



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