BOOK2
□君よ何処
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学校帰りの鞄を引っ提げたまま、二人の少女は住宅地をうろついていた。
十字路で左右を見渡しては先へ進み、三叉路で脇道を覗いてはうーんと唸るのは鳥居。
巻は呆れ顔をしながらも、ずっと着いて来ていた。
「夏実ー、なぁんもないじゃん。ホントにこの辺な訳?」
「絶対ここなの!間違いなく見たんだから!」
前を行く鳥居は振り返りもせずに、断言した。
鳥居が見たもの、それは。
「あんたが笠の坊さんを見かけて、もう一度会いたいってのはいいけどさ。向こうだって、たまたま通りがかっただけかも知れないよ?ここらに住んでるとは限らないし」
すると鳥居は足を止めた。
「だって、他に手がかりがないんだもん。千羽様の祠でも、いくら待っても結局会えないし…」
「やれやれ…」
眉を下げる彼女の肩に、巻はぽんっと手を置いた。
「ほら、もうすぐ暗くなるしさ。ちゃっちゃと捜そうよ。私も付き合うからさ」
「沙織…。ありがとう」
再び足を進めんとして、二人の顔が同時にひきつった。
そこに得体の知れないものが立ち塞がっていたのだ。
影と言うよりは、黒い靄の塊。
雲のように宙にたゆたっていたものが、次第に人型を為していく。
「これ…何…?」
「よ、妖怪…じゃね…?」
二人が後退った時だった。
黒い塊が、まるで刃物で切られたかのようにすっぱりと、二つに割れた。
そのまま霧のように散る。
「き、消えた…?」
その先に、また人影が現れた。
今度は輪郭がはっきりしている。
相手が人の姿をしているなら、まだ抵抗のしようもあると言うもの。
巻が鳥居を庇うように前に出た。
すると。
「逢魔ヶ時――闇への扉が開くこの刻に、女だけで出歩くのは危険だぜ」
どうやら青年のようだった。
長い髪を流し、着物をゆったりと着て、こんな場合でなければ役者か何かと思うところだ。
「あんた、今何したのさ」
「斬ったのさ」
絞り出すような巻の問いに、青年はあっさり答えた。
「ここいらもオレのシマなんだがな。たまに言うことを聞かねぇ連中がいるのさ」
悪かったな、と詫びて、彼は手にしていた刀を鞘にしまった。
「オレのシマって…。まさか、清継の言う妖怪の主って…!」
「それが萬の鬼を背負う者って意味なら、そうなるな」
彼は不敵に笑みを浮かべた。
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