BOOK2

□君よ何処
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「ところで。おい、猫目の娘」

「え、私?」

不意に彼が鳥居に顔を向けた。

「お前さん、笠をかぶった僧侶を捜してんだろ?」

「ど、どうして…」

「さっき話してただろう」

と言うことは、ずっと後をつけられていたことになる。

それよりも。

「お坊さんのこと、知ってるんですか?」

「まぁ、ちぃっとばかし縁があってな」

「教えてください!どこにお坊さんはいるんですか?」

「へぇ」

彼は答えずに、鳥居を楽しそうに眺めている。

例えるなら…そう、玩具を手に入れた子供のよう。

「もしやお前さんたち、想い想われる仲なのかい?」

鳥居は恥ずかしそうに視線を逸らした。

「そんなんじゃ…。ただ、お礼がしたいんです。何度も助けてくれたから…」

「お礼、ねぇ」

もじもじしている鳥居を援護するように、巻が青年を睨む。

「妖怪の主だかなんだか知らないけどさ。その坊さんのこと知ってんなら、さっさと教えなよ」

「そうは言ってもなァ」

巻の啖呵を彼は軽くいなす。

「オレもそうだが、滅多に人の前に出るもんじゃないんだ。居場所を教えたら、こっちが困る」

つまり、知ってはいるが教えられないと言うのだ。

「そんな…」

がっくりと肩を落とす鳥居の耳に、ただし、と彼の声が届く。

「ヒントくらいはやる」

鳥居はぱっと顔を上げた。

「お願いします!どんなことでもいいんです!」

手掛かりがあるなら、なんでもいい。

「あいつに会いたければ、呼ぶことだ」

「呼ぶ…?」

「そう。会いたいと、傍に来てほしいと強く念じ、呼べばいい」

伝えるべきことは伝えたと言うのか、青年は二人に背を向ける。

鳥居は一歩二歩、彼を追った。

「あのっ!呼べば、お坊さんは来てくれるんですよね!?」

「あぁ。あ、そうだ」

彼は頭だけで振り返った。

真面目か冗談か分からない、意地悪そうな笑みを浮かべている。

「あいつに近付くんなら、気をつけた方がいいぜ。あいつの好みは若い女…ちょうどお前さんくらいの娘だからな」

「えっ」

「げ、ロリコン!?」

鳥居の後ろで巻が顔をしかめる。

「じゃあな」

長髪と着物の裾をなびかせて、彼は十字路の角に消えた。

「呼べば…来てくれる…」

鳥居は一字一字確かめるように、小さく呟いた。



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