BOOK2

□惹かれ合う星のごとく
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夏の盛りには早いこの時期、夜が更ければ昼間よりかは過ごしやすくなる。

頭上には、今にも降り注ごうかと言う程の星々が煌めいている。

ちょうど座れそうな、大きめの石に腰を下ろした黒田坊は、隣に並んだ少女を見やった。

「こんな遅い時分まで出歩いていて、親御が心配せぬか?」

本来なら、若い娘が外出していい時間帯ではない。

しかし、本人はなんのその。

「大丈夫です!今日は友達の家に泊まるって言ってありますから!」

黒田坊は思わず苦笑した。

「まったく、悪い娘だ」

「えへっ」

少女は茶目っ気たっぷりに舌を出した。






日課として千羽の祠付近を巡察していた黒田坊は、そこで夏実と出くわした。

と言うより、待ち伏せされていたらしい。

星が綺麗だからと半ば強引に誘われ、断りつつも一人で置いておく訳にもいかず、今に至る。

「夏実殿は星が好きなのか?」

「んー、すっごく好きって程でもないんですけど…。今日は七夕ですから」

「あぁ、そう言えば」

奴良組でも、リクオの母や毛娼妓らが笹やら何やら用意していた。

今ごろは星見の宴が繰り広げられているやも知れぬ。

酒は残っているだろうかと考えた黒田坊の横で、夏実は星を探し始めた。

「え〜っと、織姫は…」

「棚機女(たなばたつめ)か。それならほら、一際明るいあの星だ」

夜空を指し示す黒田坊の指の先を、夏実は追う。

「あっ、見つけた!じゃあ、彦星は…っと」

「牽牛はもっと下の、河を挟んで対極にあるあれだな」

「もっと下…あ、あれですね!すごーい!天の川もはっきり見える!」

声を弾ませる夏実。

それだけで、黒田坊の心も沸いてくるのだ。

「ね、お坊さん!」

袖をくい、と引かれた。

「こんなに晴れてるんですから、織姫と彦星もきっと会えましたよね!」

夏実は、まるで親しい友人の事のように喜んでいる。

「あぁ、きっとな」

己の表情が穏やかになるのが、黒田坊には判った。

夏実は再び夜空を見上げて、良かった、と呟いた。

どこまでも、他人を思いやる事に長けた娘だと思う。

これはこの少女の才能、宝ではなかろうか。


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