BOOK2

□陽光と驟雨に身を寄せて
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降り注ぐ日差し、蒼空にそびえる雲の峰。

男は晴天を仰ぎ、目を細める。

虫の合唱が耳朶を打つ。

僅かな思案ののち、彼は足早に歩を進めた。









さわ、さわ……。

下草と黒衣が、同時に風に揺れる。

先だって土地神を狙う妖を倒した折には荒れ地だったと記憶しているが、今は人に踏み固められたのか、道らしきものが出来ていた。

向かう先の祠の前に見知った背中を認め、黒田坊はそっと口許をほころばせる。

「熱心だな」

祠に合掌していた少女ははっと振り向き、次いで花開くような笑みをこぼした。

「お坊さんっ!」

視線を近しくするために、彼女の隣に同様に膝をつく。

「今は学校は夏休みだろう。毎日来ているのか?」

「はい、時間のある時はだいたい。なんとなく日課になっちゃって」

「信心深いのは良いことだ」

そう言ってやると、少女ははにかんだ。

それにしても。

黒田坊は改めて祠を眺める。

こぢんまりとしていて、見るからに年月を経ているのに変わりはないのだが、しかし。

「どことなく、小綺麗になってないか?」

絡まっていた蔦がなくなり、申し訳程度にぶらさがっていた折り鶴は仲間を増やし、更には菓子類まで供えられている。

「千羽様、最近話題になってるんです。お参りする人が増えてきて、お手入れする人もいるみたいですよ」

「なるほど…」

人の詣でなくなった神は、誰にも知られずに消えていく。

逆に言えば、拠り所とする人がいる限り、神は生き続けるのだ。

「こやつも、ほっとしているだろうな」

「はい。神様なのに、誰も会いに来ないのは寂しいですもんね」

神に想いを馳せる二人の横を、緩やかな風が通っていった。


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