BOOK1

□陽の重なる節の日に
1ページ/2ページ


杯に落ちた花弁が静かに波紋をたてる。

男はそれをくい、と飲み干した。

ふと隣を見遣れば、伴侶となった少女がどこか切なげに、出来上がって盛り上がる下僕たちを見詰めていた。

「どうした?」

「あ、いえ・・・」

彼女は少し俯いて、それから微かな笑みを浮かべた。

「私が提案したことですのに、よく考えたら、不老長寿を願うなんて皆様には必要ないことでしたね」

己らの後ろに飾っている凛とした花は、高潔な姫君にはよく似合っている。

けれど、彼女の瞳が憂いを帯びているのは明らかで。

「見ろ。酒と祝い事が好きな連中じゃ。宴の口実があれば、何だって構わんさ」

妖は人を襲い、生き肝を喰らう。

決まって恐ろしいものだと教えられて、少女は育ってきた。

しかし、目の前の妖たちは人と同じようにご馳走に舌鼓を打ち、人と同じように銘酒に酔って羽目を外す。

時に喧嘩し、じゃれ合うのもまた、人と同じ。

そんな彼らが悪いものだとは、到底思えなかった。

「・・・本当、妖じゃないみたい」

その時の彼女の笑顔に魅せられたのは、他でもなく、夫たる妖怪の大将だった。

「珱姫」

「ハイ?」

男はその細い腰に腕を回し、新妻をぐいっと抱き上げた。

「きゃ・・・。な、何を・・・」

「秋の夜は長い。お楽しみはこれからじゃ」

彼女はこれから先、人としては長い月日を過ごすことになる。

妖と共に歩むその道は、何もかも慣れぬことばかり。

だが、少なくとも飽きることはないだろう。

未来を見据える二人に幸あれ。



【解説・あとがき→】
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ