BOOK1

□いざ、参る
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日はとうに暮れ、いよいよ闇が近付く。

獣たちさえ近寄るのを躊躇う深い山の中、湿った下草を踏む音が響いた。

「いよいよですな・・・」

鴉天狗が呟き、唾を呑む。

「噂では、もとは人。それがこの山で死ぬ際に妖気にあてられ、自らも妖怪となり、その才覚で一帯を支配するまでに成長したと言う――」

厳つい顔つきの大男――木魚達磨の言葉に、その前に立つ男は口元をにぃ、と引き上げた。

「捩眼山の、牛鬼!」

目前に濃く立ち込める霧は砦のよう。

見上げれば、先の尖った岩がどこまでも続き、行く手を阻む。

「総大将。今度はそう簡単にはいきませんぞ。何せ、相手は闘争に慣れた荒くれ集団」

「それがどうした。鴉よ、怖じ気づいたか?」

「いえ、そうでは・・・。ただ、流石に無傷では済むまいと・・・」

男はハハッと笑い飛ばした。

「それこそ上等。このワシにどこまで向かってくるかのぅ」

ぬらりひょん様、と後ろの雪女が囁いた。

「どうした」

振り向くと、彼女はある一点を凝視している。

その視線を辿ると・・・。

木立の中、霧と暗がりではっきりとしないが、一つの不自然な影があった。

こんな場所に、人などいる訳がない。

ならば・・・。
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