BOOK1

□いざ、参る
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“それ”は見られている事に気付いたのか、微かに動いた。

すかさずヒュッという風を切る音と共に、“それ”のすぐ傍の木に氷が突き刺さった。

「出ていらっしゃい」

雪女の高い声が響く。

動かぬ影。

氷がまた一つ、二つと突き刺さる。

それでも影は氷を避けるだけで、姿を見せようとはしない。

「生意気ね」

「おい、雪麗・・・」

瞬間、大量の氷が降り注いだ。

「おいおい・・・」

無惨にも串刺しの獲物がそこにある――かと思いきや。

砕けて欠片となった氷の中心にいたのは、まだ幼さの抜け切らない少年だった。

体格に似合わぬ大きな爪が背中で蠢いている。

「なんだ、このガキは」

狒々の台詞に、少年はキッと睨む。

「・・・成る程。こやつ、おそらくは牛鬼の手の者じゃろう。な?」

ぬらりひょんの親しげな問いかけにも、少年は鋭い眼光を緩めない。

しかしその顔には「それがどうした」と書かれていた。

「当たりか」

成熟しきっていないとは思えぬ気迫を気にも留めず、彼は面白そうに近付く。

そして襲いかかる爪をいとも簡単にすり抜け――。

少年の顎をぐいっと引き上げた。
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