BOOK1

□夏実とチョコ
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浮世絵総合病院の裏手、鬱蒼とした森の中。

夏実は辺りをキョロキョロ・うろうろ。

紗織は療養に効くと言われる土地神の祠にどっかりと座り込んでいた。

なんともバチ当たりな。

「夏実ー、そろそろ帰ろうよー。だいぶ暗くなってきたしさー」

「じゃあ紗織は先に帰っていいよ。私はもうちょっといるから」

紗織は足を投げ出して祠に寄りかかった。

「あんた一人残して行けるわけないっしょ。うちら、ただでさえ妖怪に狙われる確率高いんだから」

「確かにー」

紗織は夏実が持つ、ラッピングされたチョコを指差した。

「だいたいさぁ。その笠の坊さんだって怪しいもんじゃん」

夏実は不思議そうに紗織を見た。

「助けてくれたからって、いい人とは限らないよ。実は妖怪でしたーとかだったらどうすんの」

「えー。あんなカッコいい妖怪なら、私は大歓迎だけどなぁ」

紗織はあからさまに顔を歪めた。

「うわ、やめてよ。清継くんじゃあるまいし」

どっこらせ、と年寄り臭い掛け声で立ち上がり、スカートの汚れを払う。

「とにかくさ。待ってても埒が明かないよ。もう千羽様に頼んどいたら?渡して下さいって」

「そんな、便利屋じゃあるまいし・・・」

それでも仕方ないので、祠に二つ目のチョコを置こうとした、その時。

夏実は森の奥を見てあっと声を上げた。

「ん?どした?」

つられて紗織も目を向ける。

「ごめん!紗織!」

「えっ、は!?」

突然走り出した夏実。

「ちょ、ちょっと!夏実ーー!?」

紗織の叫びを無視して、夏実は木立の奥へと入って行った。


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