BOOK1

□笑ってて下さい
1ページ/2ページ


薄暗い部屋の布団に横たわる娘。

息は荒く、いつもなら桜色の可憐な頬は血の気がひいてしまっている。

「珱姫っ…しっかりしろっ…!」

「あやかし、さま…」

少女の伴侶たるぬらりひょんは、力の入らないその手をしっかりと握り締めていた。

己なら容易に跳ねのけてしまう妖怪の呪いは、人間の珱姫にとっては体を蝕む猛毒なのだ。

「くそっ…」

ぬらりひょんは唇を噛み締めた。

「ん…妖様…」

「珱姫?どうした?」

「そんな…辛そうな顔を、しないで下さい…」

はっとした。

己がそんなに悲痛な表情をしていたこともそうだが、こんな時まで相手を思いやる彼女は、なんといじらしいのだろう。

「喋るな。待っていろ、今薬を持ってきてやる」

「妖様…。どうか、笑ってて下さい…」

そして、微笑みを見せた。

「私は大丈夫だから」

何よりも美しく、愛おしい。

「珱姫。お主はわしが守る」

ぬらりひょんは妻を強く抱き締めた。



【あとがき→】
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ