BOOK1
□笑ってて下さい
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薄暗い部屋の布団に横たわる娘。
息は荒く、いつもなら桜色の可憐な頬は血の気がひいてしまっている。
「珱姫っ…しっかりしろっ…!」
「あやかし、さま…」
少女の伴侶たるぬらりひょんは、力の入らないその手をしっかりと握り締めていた。
己なら容易に跳ねのけてしまう妖怪の呪いは、人間の珱姫にとっては体を蝕む猛毒なのだ。
「くそっ…」
ぬらりひょんは唇を噛み締めた。
「ん…妖様…」
「珱姫?どうした?」
「そんな…辛そうな顔を、しないで下さい…」
はっとした。
己がそんなに悲痛な表情をしていたこともそうだが、こんな時まで相手を思いやる彼女は、なんといじらしいのだろう。
「喋るな。待っていろ、今薬を持ってきてやる」
「妖様…。どうか、笑ってて下さい…」
そして、微笑みを見せた。
「私は大丈夫だから」
何よりも美しく、愛おしい。
「珱姫。お主はわしが守る」
ぬらりひょんは妻を強く抱き締めた。
【あとがき→】