BOOK1
□全ては闇に包まれて
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食事も入浴も済ませ、一段落ついた頃。
カナはカラリと窓を開けた。
微風に乗って花の香りが漂ってくる。
目を凝らして見れば、旅館の庭に植えられた桜が満開になろうとしていた。
「ねね、見て見て!桜がある!」
「桜はさんざん見たってば〜…」
部屋の中では、歩き回ってダウンした紗織と夏実が、仲良く畳に突っ伏していた。
そして布団を敷くつららと、壁に魔除けの札を貼るゆら。
例によって、清継の突発な思い付きに振り回された訳なのだが。
どこからどんなコネを使ったか知らないが、清十字団でこんな立派な宿に泊まれるなら、それも一興と言うものだ。
「カナー、そろそろ寝ない?明日も早いし」
「ん…。そだね」
換気も済んだところで、窓を閉めようとした――その時。
視界の隅に動くものを捉えて、カナは慌てて開け放した。
「カナー?どしたー?」
そこには何もない、ただの闇。
けれど、気のせいだと言うにはリアルすぎる。
自分の感覚を信じるなら、それは――。
カナは静かに深呼吸してから、意を決して立ち上がった。
「どこ行くの?男子部屋?」
「あ…ううん。ちょっと…」
「外に出るんやったらほどほどにしぃや。どこに妖怪が潜んどるか分からんからな」
「うん。ありがとうゆらちゃん」
少女陰陽師の忠告は有り難く受け取り、おかしな視線は受け流すことにして。
カナは一人、部屋を後にした。
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