BOOK1

□心配しないで?
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久しぶりに二人で帰途についていた。

太陽は沈み、徐々に闇にのまれる時間帯。

何の変哲もない住宅街なのに何故か違和感を感じて、カナは隣の少年の服を掴んだ。

「…ねぇ、リクオくん…なんか嫌な感じがするんだけど…」

少年は険しい表情だ。

「うん…。多分、良くないものがいるね」

「そ、それって妖か――」

「しっ」

慌てて口を噤んだ。

「カナちゃん、ボクから離れないで」

言われるままに、カナはぎゅっと抱き付いた。

歩みは止めずにリクオが囁く。

「いる…。後ろについてきてる」

「えっ――」

「振り向かないで」

回そうとした首をどうにか押し留めた。

カナの脳裏には、鏡の化け物に追われた記憶がよぎる。

「カナちゃん。ボクが合図したら、全速力で走るんだ。絶対に振り向いちゃダメだよ」

「リクオくんはどうするの…?」

「ボクは“良くないもの”をどうにかする」

「そんな…。妖怪だよ!?無理だよ…一緒に逃げよう!?」

必死に説得を試みるも、彼は首を横に振るばかり。

「大丈夫だよ」

そして。

「だから…また明日、学校でね」

そう言って見せた明るい笑顔はいつもの彼で。

それが今の空気にはそぐわなくて、だけど逆に、有無を言わせない強さを持っていた。

「走れ!!」

反射的に足が動く。

自分でも驚くくらい、ぐんぐん加速していく。

背後の奇声に耳を塞ぎたくなるのを我慢して、懸命に息を吸う。

恐怖、不安、後悔――。

様々な感情に葛藤しつつ、一度止まったら動けなくなるような気がして、カナはとにかく走り続けた。

ただひたすら、彼の無事を願って。



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