BOOK1
□君の横顔
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しとしと、しとしと。
土砂降りと呼ぶにはほど遠く、小雨で済ませるには些か強い。
病院の裏手にある鬱蒼とした森の木の下で、止む気配のない雨をしのいでいた。
「――でね、そしたら…」
梅雨の時期は誰もが塞ぎ込みそうなものだが、この少女はずっと楽しそうに喋っている。
内容は、清十字団とか言う仲間のことや、目の前の病院に世話になっている祖母のことなど。
妖怪である己にはどうでもいいことばかりだが、彼女の声は耳に心地良かった。
「…ね、聞いてます?」
いつの間にか意識がどこかへいっていたらしい。
「あ、あぁ」
「ほんとに?」
少女は疑わしそうな目をしていたが、何度か頷くとまた話し出した。
それにほっとしている自分がいる。
人間の娘の言動に、何故一喜一憂させられねばならないのか。
適当な相槌を打ちながら、そっと盗み見た。
もしこの横顔が曇ることがあったら、我が主は何と言うだろう。
もし、人間と闘うことになったら…自分はどうするだろう。
この横顔を、守れるか。
その覚悟が己にあるのか。
全てを敵に回しても…?
――身震いがした。
考えるのはよそう。
「どうしたんですか?寒いとか?」
「…いや。この程度、拙僧には大したことはない」
今はただ、雨が止むことを祈るばかりだ。
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